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オレたちのワッツ 1 「世の中ってやつがけっこう立派にうそだらけで、ただのダマしあいとウバいあいばっかだ、ってことにようやくおまえのオヤジが気がついたのは、遅すぎる51才の春でした」と、熱いケチャップスパゲティをフライパンから直に口に入れて咳(せ)きこみながら、そのくせけっこううまそうに春らしい休日の朝飯を食べつつ、オヤジは笑いながらそんなことをオレに言った。妙に幸せそうに。くやしい、とかじゃないんだ。むしろ楽しそう、なんだぜ。なぜならきっと、そんなごく当然のことに気がつくまでのクソ長いナィーブな日常が、それはそれなりにオヤジにとってワッツだったからだろう。そうにちがいない。オレはそう信じる。信じる以外に道はない。おいおい道は自ら作れとか、やめてくれ。めんどい。     セックスは、ワッツだ。  大切なので、もう一度。セックスは、ワッツだ。  けれど、そういう意味では、1本のユリだって、ワッツだ。わかります?  まあ、そういうものなのだ。だから、考えるだけムダってこと。OK? ムダとダムって似てるよね。ダムの多くが実はムダであって、およそ公共事業で働くおじさんやおばさんが稼ぐ勤労感謝的な報酬社会事業だってことかもしれない件について、ここであえて善悪を問うつもりはないけれど、そこで生産される絶対的な存在がウンチとあばら屋と酒瓶とわずかながらの消えゆくおもかげ的記憶程度の話だったなら、なんのためのワッツだとオレは言いたい。わるいけど、言いたくなる。だれかにケンカを売ってるわけじゃない。だれかを個人攻撃したいわけでもない。ただ、ピュアに、オレは聖なる存在として、ワッツを説く。  みなさまの幸福が、すえながく、ワッツと共にあらんことを。めーん。  いや、しかし。ワッツが、ワッツだからって、とくに何かがすごく変わるわけじゃないっすよ。ま、それはそうです。変わるわけじゃないけど「なんだ変わんないのか」と、真っ直ぐ言っちゃったら、それは配慮にかける。むしろ営業妨害。そこはだまっていようぜブラザー(にらむ目)  で、セックスは、ワッツなのか?  もう一度問う。セックスは、ワッツなのか?  なに? 聞こえないぜ。もっと大きな声で答えやがれ。って、なんでこんなアホっぽいことをくどいまでに問いただすかというと、人間てものは、そもそも老いも若き
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ARIA劇場版シナリオ案 ARIA  〜ネオベネツィアの休日〜 【オープニング/パガニーニ、バイオリン協奏曲】 クラシック演奏会のステージ。 バイオリンコンチェルトの演奏中。 〜曲「パガニーニ作・バイオリン協奏曲1番、三楽章のコーダ部分」〜 (演奏ラスト約2分、この間にオープニングロール) ( 成田達輝さんによる演奏例、35分50秒〜) バイオリニスト・山鹿巧(やまがたくみ)が華麗な終楽章を弾ききると、満場の拍手。 彼は汗をぬぐい、笑みを浮かべて、指揮者と握手する。 巧は、客席を見回す。 (巧視点で)ステージからみた客席…… 巧の独白「……よい演奏だったと思う……でもまだ、何かが、たりない……」 【コンサート会場地下のスタッフ通路】 巧がステージ衣装のまま、裏通路の長椅子に腰掛けている。 オーケストラ団員たちのリラックスした雑談が遠くから聞こえる。 メガネをかけた女性マネージャーが靴音を響かせてやって来る。 マネージャー「よかったですよ、巧さん、今日は特によかった」 巧「そうだと、いいんですけど」 彼は頭を後ろの壁につけて、天井を見上げるような姿勢になって、目を閉じる。納得いかないことがあるかのように。 マネージャー「さっそくで申し訳ないんですが、すでにロビーの方で、お客様がたがお待ちで……」 巧「あ、はい」 巧は両手で顔を一度たたき、立ち上がる。 二人は歩きながら、話を続ける。 マネージャー「巧さん、楽器は?」 巧「楽屋にしまってきました」 マネージャー「もう? しまってきて、座っていたんですか?」 巧(苦笑して)「あ、いや、すぐにロビーに行こうと思ったんですが、ちょっと考え事を……」 マネージャー「……あのこと?」 巧「ええ、すみません……なんというか、まだ、自信が持てなくて。今日も、正直、やはり客席が、遠く感じられて……」 マネージャー「それは、つまり『お客様の反応』という意味?」 巧「いえ……たぶん、そういう意味ではありません。むしろ、僕自身の問題です。あせり、ってことなんでしょうか。みんなの心を……ネオ・ベネツィアの何かを、僕がまだ、聞けていない。たどり着けていない、という気がするんです」 マネージャー「ネオ・ベネツィアの何か?」